【あとがき】『神は世界を救う』(2023-01-24, #425157 monogatary)2023年01月24日 19時13分

『神は世界を救う』 追記:公開終了しました。移転公開未定。
投稿日: 2023-01-24
ジャンル: SF・ファンタジー
字数: 400字
お題「世界を救うかもしれないお仕事教えてください」への投稿。

400字の掌編小説。そして、芸術の典型。

以下 ネタバレ

本作の表題の「神は世界を救う」。
日本語の名詞には複数形がない。ただし、一定の名詞には繰り返すことで複数を指すことがある。
「神々」は複数だが、「神」は単数なのか複数なのか判りません。


お題の「世界を救うかもしれないお仕事教えてください」の、「世界」という語彙が何を意味するのかが問題になります。
少なからぬ人が、人類、人間社会のことを想定したようです。
しかし「世界」は、地球を指すことも普通であり、宇宙、全時空を指すこともありえます

そして、私の問題意識としては「人類こそが地球や地球の周囲を破壊している」ということです。

そうすると単純に考えれば、人類を滅ぼすことのほうが世界を救うことになる。
だからますは、人類以外の生命体、地球外生命体、機械・プログラムといった者が人類を滅ぼそうとする物語を着想しました。
そうすれば、典型的なSFストーリーでしょう。人類社会批判と同時に、恐怖や後味悪い読後感を与える作品になるものと思われます。

しかし、人類 対 敵 という二極対置構造になりますね。
そうすると、作品に対する嫌悪感や反撥を招きますし、
物語の現実味がなくなり読者が罪悪感を抱かずに「あくまでもフィクションだ」と思いかねませんし、
作者に対して「そういうアンタはどうなのよ?」っていう批判も返ってきて、作品の本旨が置き去りにされ論点がズレてしまうでしょう。

そこで、人類を敵視するのではなくて、人類視点を混ぜた、一人称主人公をヒトにした「着地点」が本作です。
主人公は人類代表で、いわゆる「やおよろずの神々」の非難を受け、謝罪を続けています。
オチの主人公の一言がいささかコミカルで、作品趣旨の鋭さを和らげつつも、共感を誘います


さて、お題は「世界を救うかもしれないお仕事教えてください」ですが、
本作では、それはどういう「お仕事」だといっているのでしょうか?

世界を支える神々です、という答えは、正解に近いですが、半分しか合っていません。

察しがよければ、ちゃんと読んでいれば、おそらく気付くはずです。

冒頭に翻って。
表題は「神は地球を救う」ですよね。
単数の「神」だとしたら、いったい誰なのでしょうか。
主人公の「私」。人類代表の「神」です。

つまり、このコンテクストでとらえれば、
「神(人類代表)が、ほかの神々に謝ることで人類を延命してもらって、人類社会(世界)を救っている」
というのが、もうひとつの解釈なのです。


以上


【あとがき】『包容力ある人々 ; Inclusion』(2023-01-23, #425052 monogatary)2023年01月24日 20時39分

『包容力ある人々 ; Inclusion』 https://monogatary.com/story/425052
投稿日: 2023-01-23
ジャンル: ヒューマンドラマ・日常系
字数: 約5000字
お題「三杯目の珈琲の味」への投稿。

「包容力がある」は inclusive で、
inclusion は、「包容する」「受け容れる」「包摂する」というような意味

表題は、monogatary の表紙(扉絵)機能に合わせ、据わりをよくするために試行錯誤した結果です。
当初の表題は「包容力のある人々 あるいは インクルージョン」(本当なら、そのほうが格好よいし、意味がよく通ります)。
背景画像も、コーヒーカップ→カップに注ぐ→東京→列車内、となっていますが、もちろん意図的です。
毎回、表紙(扉絵)に苦戦させられています。
フォント選びもです! 内容に合わせたり、第一印象をキャッチーにしようと思ったりして、試行錯誤していますよ。

約5000字にも及ぶ長めの短編で、4章だてにした。
内容からして致しかたないのですが、真剣に書いていたら、体調不良や大寒波の影響でとても時間がかかりました。


以下 ネタバレ

本作では、"diversity & inclusion" の意義を説明したかったのです。
ダイバーシティー & インクルージョン」、CSR とか SDGs とか東京オリンピックとかあちこちで、さんざんいわれています。
しかし、日本人のほとんどは、その意味が全然わかっていないから。

実際に、
『彼女は みんなと ちがってる』
https://monogatary.com/story/423476
でもテーマにしたといえますが、これでさえも理解されずにずいぶんとナイーブな(無神経な)反応もありました。

ことあるごとに心が折れそうです。
伝わらない、聴く気のない人には、どうやっても無理でしょうけれど。
私は全知全能ではないから。

だから本作では、明示的に、長尺で、話そうと思いました。

本作は、いわゆる自助グループの話です。が、「自助」グループと明示的に記述するのはギリギリまで遅らせました。


冒頭のシーンですが、読み始めた段階ではほとんの人が「1杯目のコーヒーだ」と思うでしょう。
しかし読み終えれば、「これは終盤に出てくる3杯目のシーンだ」と判ります。
終盤のシーンをあえて冒頭に出しました。歌でいえば「頭サビ」みたいな構成です。
これは、疑問を抱かせ、読み進める動機づけにするのが狙いです。

章題は、第1章 一杯目、第2章 二杯目ときますから、第3章が「三杯目」になるのを予期するでしょう。単純に章番号と杯数を一致させているだけだと。
それを見越して、第3章は「ダイバーシティ & インクルージョン」です。
最終章までいけばわかりますが、「杯目」は作中の進行状況と一致しています。
お題は「三杯目の珈琲の味」ですから、結末部分にそのモチーフを活かし、感動的な読後感を演出しました。


ところで、どこまで明示的に叙述するか、最後まで、それこそ投稿後になっても、迷いました。

本作の叙述は、客観視点です。作者の視点、いわゆる「神の視点」ともいわれているものです。
ですから、やろうと思えば何でも知っている、なにせ作者だから創ってしまえばいいので、
いくらでも明示的に書けます。明かせます。

しかし結局は、おもに第3章にある、自助グループに関する一般的な説明部分を中心に、明示的に記述しました。
現実社会に実際に在るのですから、説明すべきだと考えました。

ミーティングの内容は、外部には秘密です。
本作はフィクションですから、ミーティングで話されたことも、いかようにも創れます。
が、あえて創作せず叙述しませんでした。秘密です。

他方の、登場人物を中心にしたフィクション部分においては、なるだけ明示しないでおいて、読んで考えて察するように期待しました。
答え:
香織は、会場に最初に来て、部屋のカギを開け、机やイスを配置し、お湯を沸かしている
・柚月は、いつもなら2番目に来て、メンバーに出す飲み物の準備をしている。バッグが大きいのもそのため
・柚月も、香織と同じく真面目で几帳面。また普段は抑鬱的、根暗。その反動で、仁美に好意をもった帰り道、無邪気になった。
・マコトは、トランスジェンダー女性。だが、普段の社会生活では公表していない。なので女性装にはそれほど慣れていない
・仁美が寄付した(献金袋に入れた)のは、500円硬貨

仁美が冒頭&終盤で「損しているんだろうな」と思ったのは、金銭的な問題ではない。
仁美が真面目で、社会的に抑圧されながら辛抱していることで、「個人的に損して、社会全体に譲らされている」。


柚月が仁美に手伝わせたのは、手が空いているメンバーに協力してもらって負担の偏りを減らそうと考えたから
それはおそらく正解で、自助グループでは妥当な考え。
そのためにはあえて積極的に、必要なタスクを説明して協力させることが必要。
たまたま先に着いていた仁美がいて、手が空いていたのだから、手伝わせたのはもっともなことである。

四人の主要登場人物がみな、しっかりとした背景や人柄、内心にも意思をもっています

虹の emoji も出しましたが、いわゆるレインボープライドのニュアンスはもちろんあります。
しかしそもそも、
レインボーフラッグとか「プライド」(尊厳)とかいうものは、
セクマイ(LGBTQIA+)の尊厳だけを指向したものではありません。
誰もが、尊厳をもっています。「レインボーフラッグはみんなの、ひとりひとりの、もの」です。
そのうえで、社会の既成事実として不利益な立場に押し込められている、差別・迫害を受けている、「イジメられている」層を、
「現に存在している」と「可視化」し、支える、「ゲタを履かせる」こと、いわばアファーマティブアクションによって、公平にしよう
というのが、その発想です。
「誰もがみんなちがってる」という現実を社会的に認めて、排斥せず、公平に近付くよう是正すること、それが "diversity and inclusion"です。


以上